トヨタの車両電動化技術の無償提供の思惑とは!

トヨタ自動車、ハイブリッド車開発で培ったモーター・PCU・システム制御等車両電動化技術の特許実施権を無償で提供
世間にはさまざまな勝手な解釈、憶測、ストーリーが流布されてしまっている
開発中のバッテリー電気自動車(BEV)用プラットフォーム「MEB」の他社への大規模な販売計画を発表したフォルクスワーゲン(VW)に対して、焦ったトヨタが、BEVに対抗するハイブリッド(HEV)の仲間づくりを急いだ結果の特許開放だという論調は、その象徴的なもの。
電気自動車(EV)開発に後れを取ったトヨタは、得意の内燃機関を使用した独自のハイブリッドにこだわり、できる限り収益を上げ続けるべく、延命させようと必死だ……と
しかし、字面をきちんと読み、またきちんと取材したならば、そういう結論にはならない
トヨタが考えているパワートレーンの未来像は、そんな近視眼的なものではない
20年以上の蓄積を無償提供
トヨタが特許実施権を開放するのはハイブリッド車専用の技術ではなく“ハイブリッド車開発で培った電動化技術”についてである
HEVもプラグインハイブリッド(PHEV)も、BEVも燃料電池自動車(FCV)も、内燃エンジンの有無、外部充電の可否、バッテリーに蓄えた電気を使うか、水素から取り出した電気を使うかという違いこそあれ、最終的に車輪を電気モーターで駆動するのは一緒

トヨタがハイブリッド車の開発で培ってきた電気モーター、バッテリー、パワーコントロールユニット(PCU)などの技術やノウハウは、これらすべての次世代パワートレーンに適用されるもの
トヨタが単独保有する特許は、世界で約2万3740件にも上る
HEVは非常に高度な技術で成り立っており、電気モーターでいかに走らせ、またいかにエネルギーを回生するか、電池をいかに制御するかという技術、ノウハウの、20年以上にも及ぶ蓄積は非常に大きい
それをトヨタは2030年まで無償で提供する
電動化車両の開発、製造に、トヨタのパワートレーンシステムを活用したいという会社に対しての技術サポートも実施していく
EVは市販のモーターと電池を買ってくれば、自動車メーカーでなくても簡単に作れるといまだに信じている方はいないだろう
HEVはもちろんBEVだって、パーツがそろえば誰でも作れるわけではないだけに、これは非常に大きい

年間最大1500万台規模でMEBを外部に供給する用意があるとぶちあげたVWに対抗しての、HEVの仲間づくりだという声もある(10年前の議論ですね)
料金を支払えば、トヨタは特許実施権をオープンにしてきており、日産、マツダがトヨタのシステムを使った車両を開発、販売し、フォードにもライセンス供与を行っている
今回の発表の背景は、トヨタに対する電動化関連技術の供給、開発協力などの依頼が、ここに来て非常に増えているからです
トヨタが仲間を集っているのではなく、トヨタに仲間に入れてほしいと打診してくる会社が、向こう5年は仕事に困らないくらい、列をなしている状況
2030年に向けて自動車が電動化の方向に大きく進んでいくのは間違いない
トヨタの技術を使いたいという多くのお声がけをされている
自分たちの開発も大変なのに他社さんの分まで……という声はありますが、皆で一緒に使っていくようにしていかなければと、じゃあそれも開放しようという話なのです
(特許実施権の開放それ自体が狙いではない)
今の数倍の規模で電動化のシステムを作っていくには相当な投資が必要です
今のタイミングであれば、他社さんと一緒に投資をしてスペックも協議して決めることができる
トヨタとしてはこの分野でTier2のサプライヤーとして、他社とビジネスをしていく、仕組みを整えていくというこが主眼であります
トヨタが依然としてBEVよりもHEVに力を入れているのは、BEV技術で立ち遅れ、HEVにはまだ旨味があるからなのだろうか? 
それを考えるうえでは、今後のCO2規制について、環境問題、エネルギー問題など、世界の各国、各地域で今後ZEV(ゼロ・エミッションヴィークル)が求められ、その比率は徐々に増えていく(世界のメーカーが公言している2030年目標のBEV比率は、前倒しで実現されていく)

ZEV導入と併せて考えなければならないのがCO2排出量の低減
EUの今後の規制値を2030年には何と現在のほぼ半分にしなければならない
2020年からの95g/km規制は何とかメドがついていますが、(そこから更に15%削減する)2025年の規制値は販売する車種すべてがプリウスなら達成できるというぐらい厳しい数字
2030年には、それでも足りません、すべてBEVの導入で賄うのは非常に難しい
昨年の全世界のBEVの販売総数は、およそ120万台
トヨタ1社のHEV車の世界販売160万台の4分の3
年間販売1000万台のメーカーが販売の2割、200万台をEVにできたとしても、それはCO2排出量を2割減らすだけです
半減を目指すならまったく足りない

ヨーロッパ各社は、それをPHEV、そして48V電装系を使ったマイルドハイブリッド(MHEV)で補おうとしている。
PHEVに関してトヨタは、プリウスPHVの売れ行きからして、そこまでの訴求力を持つとは考えにくいという確信に至っている
MHEVに関して言えば、まずコンポーネンツとして電気モーター、インバーター、バッテリーなどが必要、加えて、内燃エンジンも積むわけだから、実はトヨタのHEVであるTHS2とは電気モーター1基分程度の違いしかない
コストがかかる一方、効果は内燃エンジン車に比べて十数%の燃費向上がせいぜい、THS2には遠く及ばない
トヨタはとっくの昔にクラウンでMHEVを世に出しているが、あとが続かなかった
HEVに関しては、THS2のコストはだいぶ下がっているし、今後もその方向がさらに推し進められていく
使い勝手まで含めたもっとも現実的なCO2排出量低減の解として、トヨタはここに確かな可能性を見いだしている

BEVについて言うなら、自動車メーカーが他社からの技術供給を考えるなら、トヨタの技術ではなく、プラットフォームごと供給するというVWのMEBのほうに強い関心を寄せるのではないか?
トヨタ自身、BEVは専用プラットフォームで作ったほうが効率はいいとかんがえている、準備は進めているのだろが、それは今ではない。
推測だが、トヨタは今のリチウムイオンバッテリーを使ったBEVにはまだ本腰を入れるのは早いと見なしている
2025~2030年あたりはまだ、こうしたBEVは販売の何割かを占めるだけにすぎず、本格普及はその先。

カギとなるのは、開発中の全固体電池であり、それが使える前提となれば車体のパッケージングは大きく変わってくる
トヨタとしては、そこからがBEV本格普及時代だと狙いを定めて、それに向けた開発を進めているに違いない

トヨタがVWの動きに焦り、BEV開発に遅れ、HEV技術に拘泥し……といった話は、見当違いだ、持ち上げる必要もないが、こじつけの理由でのトヨタ悲観論は自動車の将来像を見えにくくするだけ